「テラ、私はお前を、我が息子の様に思っている……そんなお前に、折り入って一つ頼みがある」
「何でしょう?俺に出来る事であれば何でもします!」
それがどんなに困難な事であろうとも、自分の師からの頼みをテラは最初から断るつもりはなかった。
「そうか……」
そんな弟子の言葉を受け、マスター・エラクゥスは項垂れる。
その様子からは何か迷いを感じ、テラは焦る。
師のこの様に悩む姿を見る事はあまりない、一体どうしてしまったというのか。
「テラよ……一度だけで良い」
「はい」
「私の事を……『おとうさん』と呼んでくれないか?」
「……えっ!?…あっ、はい!?」
自分の予想とはあまりにもかけ離れた師の頼みに、テラは驚いた。
テラが想像したのは勿論、何か危険な任務であるとか、難しい修行の手伝いであるとか…そういったものであった。
しかし、目の前の師が打ち明けた内容はそのどれでもなく、至極簡単でありながらも、普通であればそのような事を頼む事はしないだろう内容であった。
テラは迷い、また焦った。
いくらなんでも、自分の師匠に対しその様な呼び方をする等できるハズがない。
「えっと……」と言い淀むテラに、マスター・エラクゥスは申し訳なさそうな表情を見せる。
「すまぬテラよ、お前に無理をさせるつもりはない…今のは私の誤りだ、忘れなさい」
ふぅ…と深い溜息を吐く師匠に、テラの心は揺れる。
「あっ、マスター…そんな……俺は、別に」
そう、これは他ならぬ自分の師からの頼みである。無碍に断る訳にはいかない。
しかも、自身は最初に「できる事であれば何でもする」と公言しているのだから、余計に断る所以はない。
簡単な事である、たった一言「おとうさん」と言うだけだ。
しかし、目上の相手であるという事と…どこからか湧いてくる気恥ずかしさで、上手く声が出て来ない。
顔が熱いと感じるのは、きっと赤くなている所為だろうとテラは考える。
事実、テラよりも一段高い場所に立つマスター・エラクゥスは、目の前の長身の青年が頬を赤く染めているのをしっかりと見ている。
見た上で、相変わらずこの青年は純粋である……とそう思っていた。
「いやいや、お前に強要させる訳にはいかん…すまんな、テラよ」
そう言うと、踵を返してマスター・エラクゥスはその場から立ち去ろうとした。
「まっ、待って下さい!」
それを見てテラは慌てて、自分の師の元へと駆け寄る。
思わず掴んでしまったマスターの衣服の袖、その手を振り払う様な事はせず、マスターはそっとテラの顔をのぞき見た。
「あの……ぉ、……おとうさん」
普段の落ち着いた言動とは違い、消え入りそうな声でテラはそう言った。
真っ赤に染まった頬と、上目遣いの困った表情……。
長身の青年を表現するのには適さないであろうが、その姿は…酷く可愛らしかった。
羞恥に赤くなっているテラは気付かなかったが、その時、自分の師はあまりの衝撃に完全に固まっていた。
彼の無意識の行動は、かなりの破壊力を持っていたのだ。
「マスター…羨ましい」
「オレだったら、テラに何て呼んで貰おう……」
その様子を、他の弟子達がこっそりと影から覗いていたのは…問題の二人は知らない。
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テラは皆のアイドルだったらいいなぁ……って事です。
アクアもヴェントゥスも可愛いですけれどね、テラが好きです、テラが。
因みに、師匠は別にテラだけを贔屓にしてる訳ではないです。マスターは自分の弟子の事、皆平等に好きだといい。
だけどこう…しっかりした真面目な子に、「お父さん」って呼んでほしくなったりするんです。
ヴェントゥスは「パパ」と呼んだ方が可愛いと思います。
頬を赤くして上目遣いは、なんだかんだで私の趣味です。
ごめんなさい、ごめんなさい…。
折角クリアしたんだから、もっとマシな事考えられないんですかね…この腐った頭は。
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