のばら…その言葉の響きに、俺はどこか懐かしいと感じた。
思いだせそうなのに、どうしてもはっきりとその形を掴む事ができない。
だけど、こうしてこの花を見ているだけで…心が落ち着く。
「おーい、フリオニール君どこ…おっと、ここに居たのか」
「あっ、ラグナ……」
次元城の隅、入れ替わる建物の影から現れたラグナは俺を見て溜息を吐いた。
「どうしたんだ?何か用か?」
「全く、そろそろ出発しようぜって時にアンタ一人居ないんだからさ、探しに来たんだ」
それは済まない事をした、どうやら長い時間、自分はこうして一人で居たようだ。
「それは俺があげた“のばら”だな…どうだ?何か思いだせたか?」
「いや、それがさっぱりで……確かにこの花の名前に、何か思い入れがあったと思うんだけど…何か引っかかって思いだせないんだ」
分かるのは、それは大事なものだったという事だけ。
この花の指し示すものは、一体なんだったのか…。
頭を悩ませる俺に対し、ラグナは顎に手を当てて首を傾げた。
彼が考える時によく取るポーズだ、これでちゃんと考えてくれている時もあれば、しばらく考えた末に「分からない」という事も多いのだけれど。
「何か大事な人に対して贈ったもの、だったりしてな」
「大事な人に?」
「そう、贈り物に花は鉄板だろ?特に薔薇は種類が沢山あるけど、どれだって喜ばれる」
成程、誰かへの贈りものであるならば…記憶に関わっているのかもしれない。
だってそれは、俺とその人を結ぶ確かな物だったんだろう。
絆とも、証とも、呼べるものだったのかもしれない。
この花が表すものは、きっと俺にとって大きな意味があるんだ。
ただの一輪の花ではない、その見た目以上の大きな意味が。
「何せ、薔薇の花は愛する人に贈るもの…って相場は決まってるからな」
「愛する人かぁ…………っえ!?」
彼の発言に俺はビックリした。
花の事はよく知らない、この花はそんな大きな意味を秘めたものだったのか?
「何だ、知らなかったのか?薔薇の花は愛する人への贈り物、そののばらみたいに赤い花なんて特にそうなんだぞ」
「そ、そうなのか?」
「そう!だから、元の世界でアンタの愛する人に贈った物…だったりしてな」
そう言ってニッコリと笑うラグナ、俺は顔が熱くなっているのが分かる。
でも……もし、そんな強い結びつきのものならば…どうして俺は思いだせないんだろう。
というか、もっと広く沢山の人を繋ぐような…そんなものだった気がするのだ。
希望や未来、そんな光をもたらすもの……。
「ふーん…まあ、フリオニール君がそう言うのなら、そうなのかもな。でもさ、きっとこれは君が引き継ぎたかった誰かの想いなんだろうな…」
「想い?」
「そう、誰かを想う事…誰かに想われている事、それって大事な事だろう。誰かに愛されてた、そう考えると強くなろうって思うものなんだからさ」
だから大事にしろよ、そう言ってラグナは笑った。
「そののばらには、俺からフリオニール君への愛も詰まっている訳なんだからさ!」
「なっ!…ラグナ、冗談はやめろよ」
「ハハハ。まあでもさ、誰かとの繋がりは大事にしろよ…いつか別れる事があっても、その繋がりはいつまでも一緒なんだからさ」
ふと空を見上げてそう言う相手の言葉に、心の奥で何かが動いた気がした。
そうやって想い合う関係は…なんだかくすぐったくて、暖かくて。
どこか嬉しくて、懐かしくて…そして、少しだけ苦しかった。
大事なものだ、という事は分かる…。
ゾワゾワと、俺の奥で何かが叫んでる。
これは…これは、何だ?
「……そう、だな…。皆待ってるし戻ろうか」
「…いや、もう少し待ってもらっても大丈夫だろう……だから、なんだ。とりあえず気が済むまで泣いておくんだな」
「えっ?」
誰も泣いてなんかない、そう言おうと思ったけれど言葉にならなかった。
はらはらと、自分の目からとめどなく涙が零れる。
何で俺は泣いているんだろう、別に悲しい事なんて無いと思うのに。
でも、止まらないんだ。
「もう、無くしたくない……」
口に出来た言葉はそれだけ、そんな俺にラグナは首を傾けたけれど「大丈夫だ」と明るい声で返してくれた。
その声が、俺の中で強い力になった気がした。
その次には、その映像は暗闇に飲み込まれた。
消える…消える……。
嫌だ、もう無くしたくないのに…手を伸ばした、もう消えて欲しくないんだと……必死で。
でも……。
「…フリオ、フリオ…どうしたんッスか?」
そんな声がして目を開けると、俺を不安げに覗きこむティーダの顔があった。
「ティーダ?」
「フリオ、寝てるのに泣いてたッスよ…何か怖い夢でも見たんッスか?」
そう言われれば、何かそんな悲しい夢を見た気がする。
一体、どんな夢だったのか分からないけれど…でも。
目覚めた自分は、とても大事なものを失ってしまっているような…そんな気がした。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
12回目の後、13回目に残った人達が消えた人達の事を少し引き摺ってるのが…凄く切なくて。
フリオはライトニングについて、思う所があるみたいですけれど…ラグナについても、何か思い出してほしいなぁと思うんですよね。
あのムービーは、本当に反則でした……。
のばらは誓いの合言葉、正義と書いてのばらと読み、希望も未来ものばらと読む!
…という、モ―グリからの手紙は…正直、かなりの名言だと思ってます。
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