翌朝、既に自由登校となった三年生の多くは自宅でのんびりしたり、バイトに明けくれたりしているのだが。
時間への縛りというのがないから、と言って…時間にルーズに生きるつもりはない。
そう思う俺に対し、弟は既にルーズな生活を送っている。
まあ、仕方ないか。
ふぅ、っと小さく溜息を吐くと、大家さんの家の呼び鈴を鳴らす。
「はい」
「おはようございます、ミンウさん」
「ああ、おはようございます」
二コリと微笑む大家であり、俺達の後見人でもあるミンウさん。
「そうか…もう、高校も卒業なんですね」
平日なのに、学校へまだ行っていない理由を思い出し、一人納得するミンウさん。
「はい、お世話になってます」
「フフフ、そんな事気にしなくていいといつも言ってるでしょう?それより、どうしたんですか?」
そう尋ねられ、俺は持っていた包みを差し出す。
「あの、コレ……バレンタインデーのチョコレートなんですけど」
そう言うと、彼は驚いたように目を見開く。
「君が作ったんですか?」
「えっと…あの、はい……」
どもりながらもそう返答すると、彼はふわりと微笑んだ。
「弟君にでも、ねだられましたか?」
ずばりと言い当てられ、俺の心臓が驚いて跳ねた。
「何で」
「こういうイベントに、君は率先して参加するタイプではないでしょう?兄を愛している弟君なら、君に無理な注文でもしたのかと」
この人は本当に、どこまで人の観察が得意なんだろう?
やはり、大家のような人の生活に密着した事をしていると、そんな風になってくるのか?
「…お口にあうか、分かりませんけれど…」
「君は料理上手ですから、楽しみにさせてもらいますよ」
笑って感謝してくれるミンウさんに、俺も微笑み返す。
「それじゃ俺…これから、シャドウを起こしてこないといけないので」
「彼も朝寝坊さんですね。コレ、ありがとうございます」
そう微笑む彼に、俺を笑顔を返し家へと帰ろうとした俺の背に、「ああ、そうだ」とミンウさんが声をかける。
「体には気を付けて…お兄ちゃんをもっと労わるように、とシャドウ君に伝えておいて下さい」
「……はい?」
「若いからとはいえ、無理をしてはいけませんよ」
そう言って意味ありげな笑顔を作ると、ミンウさんは家へと入ってしまった。
「もしかして……バレてる?」
そんな訳ない…そんな訳ないよな?
しかし、彼の言葉の端から考えられるのは、昨晩の事に関して俺への労わりと、弟への注意にしか聞こえない。
「ここって…そんなに、壁薄いんだっけ?」
そんな疑問を持ちつつ、まだ痛む腰を擦り、俺は自分の家へと向けて歩いた。
とりあえず、あの性欲の魔人を叩き起こしてやろうと、心の決めて……。
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