人混みの中で、ふと佇む男の姿を見つけた。
遠くからでも目立つ銀色の長髪、褐色の肌、間違いなくそれは知り合いの姿。
「こんな所でどうした?」
別にこのまま無視して通り過ぎても良かったのだが、なんとなく、俺はソイツに声をかけた。
「おう、スコール」
やけに上機嫌で俺に挨拶をするバイト先の同僚。
その服飾の凝り方から、さては…と、俺は思考を巡らせる。
「デートか?」
「そういう事」
それはもう満面の笑顔で、嬉しそうに俺にそう返答するシャドウに、俺は小さく溜息。
コイツの彼女自慢はよく知っている。
それはもう、ベタ惚れなのである……。
ただ……コイツの“恋人”は、どうも一般的な出会いで恋愛へと発展していったわけではないだろう…と、俺は思っている。
コイツ自身、どこまでその自覚があるのかは、知らないけれど……。
コイツが彼女自慢をしだす以前、コイツの自慢といえば自分の兄貴だった。
ここまで堂に入ったブラコンも、中々見かけない。
その兄貴自慢がある時から、一切なくなり今度は自分の“嫁”自慢だ……。
言ってる内容は、以前の内容と一切変わっていないのに。
だから、俺は疑っている。
コイツの“恋人”というのは、まさか…とは思うが、コイツの兄貴ではないのか……と。
「待ってるのか?」
「恋人待たせるのは忍びないでしょ?」
「お前がそこまで夢中になる恋人、というのも想像できないな」
「そう?」
当たり前だ。
バイト先で、あれだけ告白され続けそれを全て断り続けていた同僚。
学校でもさぞかしモテるだろう事は、予想できる。
そんな男を、ここまでベタ惚れさせられる相手なんだ。
「お前だって、会えば分かるって!惚れるんじゃないぞ!!」
「はぁ……言われなくても分かってる」
そこまで夢中になれる理由が何か、俺には多分理解できないだろう。
何を大事に思うのかは、人それぞれなのだから……。
コイツにとって大事なものと、俺にとって大事なものは違う。
そこでふと思い出したように、俺はここでは不自然な流れで彼に尋ねる。
「お前の兄貴は、元気か?」
それを聞いたシャドウは、一瞬大きく瞬きをした後、何かを理解したらしくニヤリと笑みを深める。
「俺、お前のそういう勘の冴えてる所は結構好きだぞ」
「そうか」
否定しない、という事は…つまりは、そういう事か。
「軽蔑した?」
ちょっと真面目な顔をしてそう尋ねるシャドウに、俺は首を横に振る。
「いや、恋愛は人の自由だ」
実際、俺は別にコイツを軽蔑してなんていない。
人の恋愛は自由であればいい、相手が誰であろうと、それは同じ事だ。
なら、男だろうが兄弟だろうが…本人が幸せならば、それでいいじゃないか。
「お前のその理解の良さも、俺は好きだよ」
「お前の兄貴と、どっちが好きだ」
「それは、また別次元の話だろ?」
そう言って笑うこの男に、俺は小さく溜息。
まったく、本当にこの男は相変わらず…たった一人だけを愛している。
見た目、言動、性格に似合わず、本当に一途な男だ。
「おっ!来た来た!!」
隣で話していた男の顔が、パッと嬉しそうに輝く。
そして相手へ向けて大きく手を振る。
それに気付いたらしく、相手は向こうから駆けてくる。
風になびく長い銀髪と、褐色の肌。
街行く人間が注目する、整った顔立ちの二人組。
「遅いよ」なんて言いつつも、それを咎めるような顔ではなく、来てくれた事を本当に喜んでいる表情。
そんな嬉しそうな満面の笑みなんて、今まで見たことない。
ああ、コイツは本当に幸せなんだろう。
こんなに愛する人間と出会えて。
「紹介するよスコール、俺の兄貴!!」
走って来た相手を、背後から抱き締めて俺の方へと向き直ると、コイツはそれはそれは自慢げに、自分と全く同じ遺伝子を持つ、愛する半身を紹介した。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
間に合った、良かった良かった……。
双子だけで書こうと思ったけれど、何故かスコール視点に。
本日中にアップできて、本当に良かったです。
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