店先に並ぶ淡いピンクの花。
花というのは生き物だ、植物の移り変わり程、季節感を感じられる事はない。
「桃の花ってさ、本当なら五月くらいが見ごろなんだぞ」
店先の花を手入れしながら、彼はそう言った。
「そうなのか?」
知らなかった。
桃の節句というものだから、てっきりこの季節に咲くものだと思っていたのに……。
桃の花を見てそう考えていた私に、彼は笑いかける。
「まだ梅の方が見ごろだからな、だから、これは特別に栽培したものなんだ」
生けられた切り花の枝を整えて、彼は笑う。
彼が花をとても愛しているのはよく知ってる、その献身的な姿は本当に愛らしい。
季節を愛するというのは、本当に良い事だと思う。
それだけで、日常が美しくなるのだ。
輝かしいんだろう、きっと。
彼にとっては、一日一日が。
「兄貴、腹減った」
奥から出てきた彼の弟は、そう言うと背中から彼に抱きついた。
そして私を睨んで「こんばんは、ウォーリアさん」と挨拶した。
相変わらず、私はあまり好かれていないらしい。
まあ、それは当り前だが。
「まったく…恥ずかしい奴だな。重いから離れろよ」
「嫌だよ、いいじゃん別に」
ぎゅうっと抱きつく彼の姿は、どうも子供っぽい。
そういう誰かに甘える仕草は、確かに私は苦手としている。
「困っているだろう、離してあげなさい」
フリオニールに加勢する私を見て、さらに一度睨み返すと、しぶしぶといったように彼から離れた。
「お客様の前で恥ずかしい」
「客って…友達の間違いじゃないの?」
「どっちだっていいだろ?あっ、そうだ…ウォーリアさんは、夕飯どうするの?」
「これから帰って食べようと思うんだが」
「そっか、もし良かったらウチで食べていかない?」
その誘いに、彼の弟はビックリしたように兄を見る。
「構わないのか?」
「いいよ、どうせ俺達二人しかいないし、一人分くらい対して変わらないしさ」
そんな折角の申し出なのだ、しかも想い人からの。
「それなら、お相伴にあずかろうかな」
「マジで?」
そう口にしたのは弟の方。
フリオニールはその返事に、とても嬉しそうに笑顔で「良かった」と口にした。
「それなら、今日はちらし寿司にしようかな、折角だから…桃の花、テーブルに飾って」
彼はそう言って、花の枝を一本取り上げた。
嬉しそうに口にする彼は、本当に日々を幸せに暮らしていられるんだろう。
すっかり忘れ去ってしまっていた、日常の小さな出来事を思い出させてくれる彼。
そんな彼に従って、私も幸せになれるのだ。
「すなまないな、ありがとう」
「いいんだ」
そうやって笑う彼に、弟は不満げに見ていた。
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桃の節句、ギリギリ間に合った!!
花屋のフリオとシャドウと、会社員のウォーリアの三角関係(?)。
桃の節句っていうのが、もうどうしても花に関係する事なのでね…。
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