イライラしながら、携帯を眺めていた。
まあ、時期も時期だが…新幹線なり回数券なり、どういう訳か駅の窓口は高齢者の集団で混んでいる。
少子高齢化社会、か……。
それにしても、時間を持て余した老人は、何故こんなにも出歩くのが好きなのか?
考えても仕方ない事を考えつつ時計を眺めていると、ふと一人の駅員が出て来るのが見えた。
「あの、定期券でお待ちの方いらっしゃいますか?」
おずおずといった感じでそう声をかける、銀髪の若い駅員。
「あ……はい」
ずっと並んでいる俺を見て、頭を働かせたのか…それとも、時間が経つとそう尋ねるように言われているのかは不明だが、とりあえず、声をかけてくれた彼に感謝したい。
若い駅員は頷いた俺を見て、記入した定期券購入用の用紙を受け取った。
「それでは、少々お待ち下さい」
笑顔でそう言って奥へ引っ込む彼の笑顔が可愛いとか、口にしたら何を考えてるんだコイツは?と思われるような事を考えつつ…ふと、目の前にある掲示を見て首を傾ける。
『通学定期を購入のお客様へ
新年度、通学定期を購入の際は、必ず、通学証明証を提示の事……』
自分の手の中にある学生証を見て、再び首を傾ける。
いいのか?
そんな疑問を抱く俺の元へ、さっきの駅員が慌てて戻ってくる。
「すいません、あの通学証明証を…」
……やっぱりな。
用意していた学生証を彼に渡すと「すみません」と頭を下げる彼を見て、もうしばらく待つ。
「すいませんお待たせしました、それではご確認をお願いします…明日から有効の通学定期で、期限が」
「あの、期限が違う…」
「えっ?」
日付が、どう考えてもおかしい。
三カ月と書いておいて、四月に購入し五月が期限はおかしいだろう。
頭を傾ける彼の元へ、同僚なのか先輩なのか、の駅員が呼びかけ「それ三カ月じゃなかったか?」と尋ねる。
「あっ!すみません!!」
気づいたらしい彼は、再び奥へと戻っていく。
随分とおっちょこちょいな駅員だな、と思ったが…本日の日付とさっきのやり取りを思うと、多分新人なんだろう。
毎年そうだ、この季節の窓口業務には研修生が立っていたりする事が多い。
まだまだ、仕事に慣れていないんだろうな。
「すいません!お待たせしました!!」
本日何度目かの彼の「すみません」を聞き、呆れや苛立ちよりも、どこか微笑ましさを感じる俺。
代金を受け取って、釣を取りに再び奥へと戻っていく彼。
ところで、この駅はどうして窓口が一つしかないんだ?一応、全ての快速が停車するそこそこ大きな駅なんだが…。
受け取った定期券を仕舞い、駅の構造という利用客としてはどうしようもない事を考えていた俺の下へ、さっきの駅員が戻って来た。
「お釣りの五十円になります…細かくなってしまってすみません」
そう言って、受け取ろうとした俺の右手を取って、お釣りを持っている彼の手がすっと俺の右手に小銭を握らせる。
思わぬ触れ合いにビックリする……というより、心臓が悪いくらいに高鳴った。
「ありがとうございました!!」
「……はい」
ニッコリ笑う駅員の笑顔が、酷く輝いて見えた。
そしてバッチリと彼の名札を見て名前を確認している自分の、抜け目の無さに、軽く嫌気が差した。
新年度、これから駅に通うのを酷く楽しみになった自分が居た。
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管理人代役・スコ、新人駅員代役・フリオ……みたいな。
恋愛要素を入れましたが、おっちょこちょいな駅員さんに萌えを感じたのは本当です。
期限を指摘するより先に、聞いた値段の安さに違和感を覚えたのが先なんですが、そこまで忠実にしなくていいか、と思いました。
お釣り渡す時に、手を包むように取られたのは本当の話です。
これは、本気でビックリしました。
人によっては不快感を与えるかもなので注意だよ、と思いつつ…こういう女性的な扱いに慣れて無い管理人は、ちょっとドキッとしましたよ。
こう現代パロで、学生スコと駅員フリオの恋愛が速攻で思い浮かんで、萌えました。
滾ってきたら、本気で書くかもしれないです…。
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