朝というのは、どうにもこうにも気分が上がらない。
爽やかな目覚め…という言葉があるが、目が覚めた後は頭がボーとするし体がダルかったりと、爽やかにはかなり程遠い。
学校へ向かい、真面目に授業を受ける…学生の本分とはいえ、それも面倒な時だってある。
まぁ、普通に考えたらそれを億劫に思っている学生は中々多い事だろう。
だが、俺が駅へと向かう俺の足取りは軽い。
軽い…というか、意味も無く急いていると言った方がいいだろうか?
学校へではない、“駅”というのがポイントだ。
「おはようございます、行ってらっしゃいませ」
改札の傍から聞こえてくる、よく通る声。
その姿を確認し、密かに、心の中でガッツポーズ。
制服のポケットから使用している定期券を取り出し、今まで急いていた足取りとは逆に、今度はゆっくりと改札へと向かう。
駅員室から一番近い改札へ向かい、通り抜ける。
「おはようございます、行ってらっしゃいませ」
皺の無い紺色の制服に映える、銀色の髪。
朝の爽やかさをそのまま表したような、綺麗な笑顔の青年。
そんな彼に「おはようございます」と、ほぼ聞こえない声で挨拶する。
彼は俺を覚えてくれているだろうか?
『フリオニール』という彼の名前は本人から聞いたのではなく、制服に付けられた名札を見て知った名前だ。
一日に何百人、下手すれば何千人と使用しているだろう駅の改札に立って、行き交う人を眺める彼に、その内の一人を覚えてくれなんて、無理な願いなのかもしれない。
それは分かっている。
新学期が始まって以降、毎日のように繰り返す自分の行動に呆れつつも、止められないのもまた事実。
営業スマイルなんだろうな、と思いつつもそれでも輝かんばかりの彼の笑顔に見送られて。
今日も、俺は色々な感情を腹の内に抱えたまま、人混みに混じって揺れる電車の中へと入る。
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駅員に恋する学生スコと、新人な駅員フリオ。
笑顔で挨拶してくれていても、相手はそれが仕事なので別に特別じゃないんだよ…という事で、色々と煩悶してたりしたらいいな、という妄想。
スコールはそういう、影からというか、心の中だけで憧れてるような恋愛とか似合うな、なんて思ったのです。
これがティーダならば、笑顔で挨拶していきそうなカンジなので……多分、速攻で覚えられるんでそうけれどもね。